これからの県の道路整備~田中衛建設技監に聞く

「新たな広域道路ネットワーク」長野県版を3月末に公表
 新たな「5か年」が進む中、長野県の道路はどのように変わっていくのだろうか──。国土交通省の道路局や国土政策局などを経て県の建設技監に就任し、この春で1年が経つ田中衛氏に、詳しく話を聞いた。(聞き手・栗原直良、酒井真一)



 いま、国全体の動きとして、「新たな広域道路ネットワーク」の策定が進んでいる。国では、各県版の計画をつくり、その後、地方整備局のブロック単位で計画をまとめているところ。関東ブロックに入る長野県版については、3月末に発表する予定だ。
 日本という視点で見たとき、近年の災害や渋滞といった課題のほか、物流では港湾や空港までをつなぐという課題がある。貿易面では、やはりアジアとのつながりが強く、日本海側と太平洋側とをつなぐことが国土の利用の点で重要だが、そこがつながっていない。
 長野県は8県に囲まれているが、それらの県とつながる道路がまだ弱い。松本糸魚川連絡道路も中部縦貫自動車道も長野県にとっては端に位置するが、日本にとっては中心。長野県内にたくさんのルートが通ることで日本の国土をもっと有効に使うことができるはずだ。「本州中央部広域交流圏」として、ここに力を入れることが全体の交流、連携につながると考えている。
 東西に中部縦貫道ができれば、海側を通らずに、関西方面に行くことができる。南側に新東名高速道路があり、日本海側には北陸自動車道があるが、真ん中を通るルートがない。東西をしっかりつなぐ横の軸があれば、長野県のためだけではなく、もっと広域な観点からも良い。
 この新しい広域道路ネットワークのイメージは、中核都市があって、それをブロック圏で結ぶもの。例えば、長野市があって、長野広域として、それをコンパクト・プラス・ネットワークという形でつないでいくという形だ。三大都市圏やブロック都市圏を中心に、災害時のリダンダンシー(多重化)を考慮して、国土を多面的に有効に使うために、計画を見直そうとしている。

■高規格道路と一般広域道路
 この見直しの中で、新たな道路ネットワークを国では「広域道路」とし、それを「高規格道路」「一般広域道路」の2つに区分している。
 「高規格道路」はサービス速度時速60㎞くらい、自動車専用道路のようなイメージ。かつて「高規格幹線道路」とした中央自動車道などや、松糸道路、伊那木曽道路のような「地域高規格道路」と呼んだものを含める。
 「一般広域道路」は拠点間を結ぶ、サービス速度を40㎞くらいに設定しているもの。「高規格道路」を補完するようなイメージで、主に直轄国道にあたる。
 こうした国の基本戦略に沿って、県としても国土を考え、まずは大きな高規格幹線道路を決めていく。
 県内を結ぶ新しい路線では、上信自動車道と諏訪を結ぶ路線と、中部横断自動車道の佐久と松本を結ぶ路線を「高規格道路」として整備を進める構想があり、来年度にも検討を進めていきたい。

■「5か年」は内容面でも拡充
 「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」を、長野県では有効に使いたいと考えている。この中に「道路ネットワークの機能強化対策」があり、高速道路と国道のダブルネットワークを整備することをうたっている。5か年15兆円と金額の大きさばかりが取りざたされているが、長野県の道路行政にとって、内容面でかなり拡充されたといえる。
 長野県は他県に比べ県土が広く、南北に200㎞を超え、東西にも120㎞ほどある。上信越自動車道や長野自動車道など大きな幹線道路があるが、その先の道路がまだ十分ではない。昨年7月の豪雨を経験して、長野県の道路は脆弱なところが非常に多くあることを感じた。上高地へ向かう国道158号が孤立し、喬木村などでも孤立集落が発生した。県土は南北に構造線が走っており、中山間地域が多いため、国道158号のような主要幹線がすぐに孤立するような状況になりやすいというのは大きな課題だ。

■21年度の県内広域道路の整備
 まずは来年度から、いま計画ができているものから進めていく。中部横断道の先線は環境アセスが今年中には終わり、都市計画決定に向けて進める手続きが見えてきた。山梨県と連携して一緒に頑張っていく。
 三遠南信自動車道は3次補正で50億円が計上され、まさに事業の真っ最中だ。
11のトンネルと9つの橋梁があるが、工事用道路が山の中へと伸びていま全面展開している。先日、県境の青崩トンネルに足を運んだが、6割以上掘り終わった状況。直轄事業は、リニアの開業を目指して進んでおり、県としてはとにかく国に頑張っていただくというところ。
 松糸道路も順調に進んでいる。安曇野区間で現地測量や立会いなどに入っているので、来年度には都市計画手続きを進めていきたい。大町区間は計画段階評価にあたるものをこれから進める。西側のどのルートが最適か、来年度から決めていく段階になる。
 めどが立っていない中部縦貫道は、早く計画段階評価の手続きへと進め、ルートを決めていきたい。松本波田道路は事業中だが、その先線を国・県・松本市とで連携して勉強会を始めたところだ。来年度、熟度を高めて計画段階評価というプロセスに持っていきたい。

<新建新聞2021年3月25日号掲載>


<プロフィール>
 1971(昭和46)年11月8日生まれ。神奈川県出身。94(平成6)年3月東大工学部都市工学科卒。同年4月建設省採用。初任地は北陸地建長岡国道工事事務所湯沢維持出張所。98(平成10)年8月人事院派遣行政官長期在外研究員(イギリス)、02(平成14)年4月四国地方整備局徳島河川国道事務所調査第一課長、04(平成16)年7月四国地整企画部広域計画課長、05(平成17)年4月内閣府沖縄総合事務局開発建設部道路建設課長を経て、07(平成19)年6月インド共和国JICA専門家(派遣)。その後、10(平成22)年7月中国地整鳥取河川国道事務所長、13(平成25)年4月四国地整道路部道路調査官、15(平成27)年7月道路局企画課国際室企画専門官、17(平成29)年4月国土政策局広域地方政策課調整室長を歴任し、長野県建設技監に。来年度からは新設された「建設部次長」となる。