【社説】報道されない地域建設業の姿

九州北部豪雨、熊本地震でも、報道ほぼゼロ

 記録的な大雨の影響による河川の氾濫や土砂崩れが全国で相次いでいる。長野県はもちろん、岐阜や、なにより九州で大きな被害の報告が今も続いている。当然、地域建設業は昼夜を問わず復旧のために活動中だ。
 しかしその姿はいったい、どれほど報道されているのだろうか。2018年に土木学会の論文集に掲載された「建設業者による自然災害対応に関する報道分析」(田中皓介)では、2017年7月の九州北部豪雨の際の、大手一般紙での「建設業」の活動を報じた数を調べているが、そこでは驚きの――ある意味では納得の――結果が報じられている。同論文によれば「九州&豪雨&(復旧or復興or捜索or救助)」をキーワードとし、災害発生後から1ヵ月を調べたところ、「建設業」が主体の活動を報じた回数は、大手Y紙では0回、A紙では1回だったというのだ。
 一方で「自衛隊」の活動を報じた回数はY紙で31回、A紙で27回だったという。同じく「警察」はY紙25回、A紙13回。「消防」はY紙25回、A紙18回。実は「ボランティア」でもY紙・A紙ともに3回あり、建設業はボランティア以上に報道されていないということがわかる。
 同論文では14年の広島土砂災害、16年の熊本地震でも同様の調査をしているが、結果は九州北部豪雨とほぼ同じ。両紙合わせても建設業が災害で活動したという記事は、広島土砂災害では1回、熊本地震でも1回だけだった。つまり、一般紙で建設業が地域を支えるために尽力する姿を伝える回数は、ほとんどゼロに近いということになる。
 今回の豪雨災害では、果たしてどれほどしっかりと建設業の姿が伝えられるのだろうか。折しも台風19号と今回の災害で、「流域治水」に注目が集まっているが、一般紙の中にはこの治水政策の転換を「堤防やダムなどの施設整備に頼らないもの」と伝える向きもある。承知のとおり、実際は流域のあらゆる関係者でハード・ソフト一体の事前防災を加速するもので、特にハードにおいてはダムの再生や堤防整備、遊水地整備、排水施設の整備など、あらゆる面で防災力を上げるものだ。これでは正確には伝わりづらい。
 ただし、ネガティブなことだけではない。今、建設業界は冊子や動画、イベントなどで災害時にどれだけ地域を支えているかを伝え始めており、本紙も少しでもその力になるようコラボレーションを行っているが、そうした成果として、台風19号の復旧においてどれほど地域建設業の力が重要だったかが、多くの人たちに認知され始めた。この流れはきっと止まらないし、止めてはいけない。そして、こうした活動を続けることが、一般紙の報道を変えることにもつながるはずだ。(酒井真一)

論文=土木学会論文集D3 (土木計画学), Vol.74, No.5 (土木計画学研究・論文集第35巻), I_241-I_248, 2018.
「建設業者による自然災害対応に関する報道分析」田中 皓介