砂防施設のストックが増加するなか、限りあるメンテナンス予算を効率的に運用するために、長期的な展望に立って施設を維持管理してゆく「長寿命化」と、インフラのライフサイクルコストの縮減が課題となっている。加えて、急な土砂崩れなどが発生しやすい現場では、施工性の高い工法の採用などによる安全の確保を両立させることが重要だ。
北安曇郡小谷村の浦川と姫川の合流点近くにある浦川第6号床固工では、こうした課題を解決するため、「ラバースチール」工法の採用や、仮締切りを倍近く設置するなどの工夫を行っている。
■浦川一帯で採用、耐久性に実績
現場となる浦川は、稗田山(ひえだやま)の大崩壊地を有する全国屈指の荒廃渓流であり、土砂流出や砂礫による砂防施設の摩耗や破損が激しいのが特徴。そこで施工を担当している傳刀組(大町市)では、浦川一帯で多く採用されている「ラバースチール」工法の採用を決めた。浦川の砂防えん堤で18年前に施工した例では、コンクリート打ち
替えで補修したえん堤が10年間で最大10m摩耗したのに対し、ラバースチールで補修したものは、年間平均摩耗量が0.26mmだったことが報告されている。ゴムの弾性と鉄の剛性とを組み合わせた保護材は耐久性があるほか、ゴムを使うため耐腐食耐酸性構造であることも利点となっている。
■施工性高め、安全を確保
また、同工法は施工性も高いと、現場を担当する同社の仁科行博工事長はいう。「部材をアンカーにボルトで固定するだけで完了するので、他の補修工法のように、生コンの現場打ちや部材加工が少なく、扱いやすい」(同氏)のが要因だ。急峻な地形での砂防工事は、急な土石流や転石が発生する危険性があるため、素早く施工できることは「現場の安全につながる」と仁科工事長はいう。
仁科工事長はほかにも、仮締切りを倍近く設置し安全確保を行うことや、メーカーへの早期発注を求めることなど、安全性を高めるための施策を実施している。こうした創意工夫を組み合わせ「円滑に施工をすすめることできた」という。
■ライフサイクルコストでメリット
「ラバースチール」は、コンクリートと鋼板を一体化させた構造部材。堰堤天端保護のほか、水叩き部やダム、頭首工の呑み口などの保護で活用されている。開発元のシバタ工業によれば「実験の結果、耐衝撃緩和性能はコンクリートの約20倍(40N・m/ cm2)、耐摩耗性は高強度コンクリートの50倍だった」という。同社担当者は「補修工事のイニシャルコストは打ち替えよりも高いが、ライフサイクルコストを考慮すると、長期に渡り、砂防施設の性能を担保できる」としている。