気候危機突破方針と県のゼロカーボン施策を語る

県建設部田下昌志部長×県環境部猿田吉秀部長 対談

 昨年4月、「気候危機突破方針」を表明し、「2050年ゼロカーボン」に向けて進む長野県。実現に向けて、将来に向けた気候変動対策としての「緩和」と、災害に対応する強靱なまちづくりを含む「適応」の二つの側面で取り組むことが重要となる。そこで大きな役割を担うのが建設だ。2021年の予算編成を進める今、環境施策を担い、建設分野での経験も深い県環境部の猿田吉秀部長と、建設施策を推し進める県建設部の田下昌志部長の二人のキーパーソンに、ゼロカーボンの取り組みが県内の建物やインフラにどのように関連し、人々の生活をどう変えるのか、そして建設業にどのようなことに取り組んでもらいたいのか-を対談形式で語ってもらった。(司会・酒井真一)

――県の気候危機突破方針とゼロカーボン宣言がもたらす、県内の建物やインフラ、人々の生活の変化についてお伺いしたいと思います。

猿田:県が目指すところは、できるだけ化石燃料の使用を抑え、その分のエネルギーを自分たちで生み出していく社会にしようというもの。今のあり方を少しずつ変えていくことで、今より暮らしやすい世界にしようという思想に立っています。決して暗くなく、明るい未来をイメージしていただきたい。建物は特に重要すし、インフラも大事です。

田下:気候変動によって雨の降り方が変わってきていて災害が起こりやすくなっています。県では、これまでインフラを整備しながら防災・減災に努めてきましたが、気候変動対策をしながらできる限り災害が起こらないような状況をつくり上げていかなければなりません。そのための施策にしっかり取り組み、住民の皆さんに気候変動に対する理解を深めていただく。こういう町にしていきたいと前向きにご協力いただけるような方法を考えていきたいと思っています。

■気候変動は進み続ける

猿田:気候変動を考えるときに、その元を断つというのがゼロカーボンで、気候変動対策としての「緩和」と、もう一つ災害への対応なども含めた「適応」の両面での取り組みが必要です。大気中の二酸化炭素の量を2050年に実質ゼロにしても、それまではずっと増えていく。つまり、今までよりもさらに気候変動は進み続けるわけです。昨年、一昨年と県内で大きな災害があり、災害の発生頻度はますます高まっていますが、建設業の皆さんに防災・減災や、災害復旧を担っていただく一方で、エネルギー消費量を下げつつ、再生可能エネルギーで自分たちの消費分を賄っていくということにも、まず事業者として取り組めることから取り組んでいただきたい。例えば、いわゆるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)化も一つです。重機の技術革新はもう少し待つ必要がありそうですが、現場事務所を高断熱化したり、ソーラーパネルを使って自家発電するなど工夫の余地はいろいろあるでしょう。現場との行き来や通勤時に使う車を徐々にEVに替えていくというのも良いかもしれません。もう一つ、小水力発電は、建設会社の方が管理する方が非常にありがたいと聞きます。県外の資本が突然発電を始めるというのは抵抗があるようで、その点、建設業は地域の信頼がある。水を使いますので、ちゃんと水を知っているということも大きいようです。

田下:奈良井、松川、豊丘の3ダムを改良することで効率良く発電できるのではないかと、建設部管理のダムを施設移管して発電量を増やしていこうという取り組みもやっていきたいと思っています。建設業界の再エネ化はまだ難しいかもしれません。ただ、建築分野は進んできていまして、県で整備する駐在所、中川村と上田市西内の建物を来年度、高断熱のモデル的なZEBの建物として率先して取り組みながら、工務店の皆さんにも見ていただこうという取り組みをしています。また、ゼロカーボン住宅として、従来、環境配慮型の助成金で省エネ基準を満足することを基本に助成していましたが、まさに、いまこの議論をしています。できればZEHで、さらに高い性能を目指してZEH+(プラス)性能を求めながら、制度の構築をしていきたいと考えています。大手のハウスメーカーはZEH対応ができているので、県としては地元で生活されている工務店の皆さんが、気持ち良く取り組めるような環境をつくるために、技術的な指針などを整備していかないといけないと感じています。講習会等を通じて、地元の工務店の皆さん、施主さんにご理解いただけるよう取り組んでいきたいと思っています。

猿田:建物も初期投資がかかります。ただ、ランニングコストでかなりの部分をカバーでき、内容によってはプラスに転じる。そこを県としても情報発信していきますが、施主に対して工事をされる皆さんにもご説明いただくことが大事と考えています。

田下:1回建てると30年くらいはじゅうぶん持ちますから、ランニングコストを含めると経済的に有利です。そうしたメリットをアピールする資料を用意して、断熱構造をしっかり整えていただければ、後ほど資金的に融通の利く事業になった段階で太陽光パネルを入れるなどの創エネの方の対応ができる。後々、技術革新が進んできたころに対応していただけるような進め方を考えていきたいと思っています。まずは、工務店にプッシュするための資料をしっかりつくっていかなくてはならないと考えています。最先端で取り組まれている工務店さんもあるんですね。県は、すそ野を広げる、どの工務店さんでも対応できる状況をつくりあげていきたいと思っています。最初の初期投資はどうしてもかかってしまいますので、施主さんにそこを理解していただかないとと思いますし、環境配慮型の制度も、何らかの組み換え等を考えながら促進するための施策を考えていきたいと思います。

――土木分野の取り組みとしてはグリーンインフラなどもありますよね。

田下:県内の市街地の緑被率についてデータを調べています。長野市は23%、松本市も >>>続きを読む

新建新聞2021年1月25日号掲載