建設業における新型コロナウイルス感染症対策のポイント

ミネルヴァベリタス株式会社 顧問 信州大学 特任教授 本田 茂樹 氏
【プロフィール】
慶應義塾大学卒業後、現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社。その後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在に至る。リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。


※本稿は2020年4月30日現在の情報に基づいて執筆したものです。

■はじめに
 新型コロナウイルス感染症の流行が世界的に拡大している。日本もその例外ではなく、4月7日に東京都、大阪府など7つの都府県を対象として「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」が発出され、その後、4月16日に、その範囲が全国に拡大されている。また、その流行が長期化することも懸念されている。
 本稿では、新型コロナウイルス感染症の概要を説明するとともに、その流行に対応するべく改正された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を踏まえて、建設業として今後どのように対応を進めていくべきか考える。


1.新型コロナウイルス感染症の概要

(1)どのようなウイルスか
 人に感染する「コロナウイルス」は、これまで7種類見つかっているが、その中の一つが今回のウイルス、いわゆる「新型コロナウイルス」である。症状としては、全身倦怠感や発熱、咳などの呼吸器症状が報告されている。

(2)どのように感染するか
 現時点では、主たる感染経路として、飛沫感染(ひまつかんせん)と接触感染(せっしょくかんせん)の2つが考えられている。
 ①飛沫感染
 感染者の飛沫(咳やくしゃみ、つばなど)と一緒にウイルスが放出され、他の人がそのウイルスを口や鼻から吸い込むことによる感染経路であり、密集した部屋での会議やイベントなど多くの人が集まる場所で起こる。
 ②接触感染
 感染者が咳やくしゃみを手で押さえた後、その手で周囲の物に触れるとウイルスがつく。他の人がその物を触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触って粘膜から感染する経路である。ドアノブやスイッチ、電車やバスのつり革などに触れた手で、口や鼻を触ることで起こる。


2.感染防止対策を考える
 今のところ、新型コロナウイルス感染症に有効なワクチンはなく、抗ウイルス薬についても効果があるとみられるものが出てきているものの、すべての患者にすぐに投与できる状況にない。
 ワクチン・抗ウイルス薬などの有効な手段が見つかるまでの間は、以下のような感染防止対策を着実に実行することが求められる。

(1)従業員一人ひとりの感染防止対策
 主たる感染経路である飛沫感染と接触感染を断つ対策として、次の項目が考えられる。
 ・石鹸による手洗いと消毒用アルコール製剤による消毒を励行する
 ・咳やくしゃみなどの症状がある人は、咳エチケットを心掛ける
 ・外出する際は、ラッシュなどの時間帯を避けるなど人混みに近づかない
 ・「3密」(換気の悪い密閉空間、人が密集している場所、近距離で会話・発声が行われる場所)を避ける
 ・接触感染を防ぐため手で顔を触らない
 ・発熱や咳、全身倦怠感などの症状があれば出社しない -など
 家庭内感染の可能性も考えられることから、従業員本人だけではなく、家族も同様の感染防止対策が行えるように研修などを通して従業員を啓発することも求められる。

(2)建設業における感染防止対策
 個人レベルでの対策に加えて、職場ではその特性に合わせた対策を実践することが必要である。

 ①事務系オフィスの場合
 ・入口にアルコール製手指消毒剤を置く
 ・ドアノブ、エレベーターのスイッチ、複合機のキーなど、多くの従業員が触れる場所を消毒する
 ・室内の換気をよくする 
 ・在宅勤務の導入 -など
 在宅勤務は、「導入する」と決めても、すぐにスタートできるものではない。例えば、会社のネットワークに接続可能な社用のノートパソコンを持ち帰れるようにすることが必要である。また、会社の情報が紙ベースのままでは、それらの社内情報に自宅からアクセスすることはできないため、情報のデータ化も必須となる。
 請求書や領収書に関する社外とのやり取りや社内の経費精算が紙ベースで行われている場合は、それらの業務が電子データで進められるような仕組みづくりも求められる。

 ②建設現場の場合
 建設現場では、極力、「3つの密」を避ける体制を整える。特に、朝礼、点呼、各種打ち合わせ、着替え、食事休憩などの場面で「3密」が発生しないように注力する。
 また、多くの建設現場では、朝礼の際、職長などが検温や体調管理を実施していると考えられる。これらの検温・体調管理などの手順を、形式的に行うのではなく、的確に実施することが極めて重要である。
 建設現場で感染者が発生すると、濃厚接触者を含めて多くの欠員が出る可能性があり、その後の工事続行が難しくなることも考えられるため、感染防止対策の徹底と検温・体調管理は最優先で行う。
 感染者(感染の疑いがある者を含む)や濃厚接触者がいることが判明した場合は、速やかに受注者から発注者に報告するなど手順を踏むとともに、その後の対応については保健所等の指導に従う。


3.「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」)で求められること

(1)「特措法」の背景
 2009年4月に発生した新型インフルエンザ(A(H1N1))は世界的大流行(パンデミック)となり、日本においても、一時的に医療資源や物資が不足するなどの混乱が見られ、またさまざまな課題も明らかとなった。
 これを機に、日本では病原性の高い新型インフルエンザ等感染症や同様の危険性がある新感染症が発生した場合に備えて、2012年5月11日、「特措法」が制定された。

(2)新型コロナウイルス感染症への対応~改正法の成立・施行
 新型コロナウイルス感染症は、2013年に施行された「特措法」の対象となっていなかったが、今般の流行を受け、「特措法」の対象として新型コロナウイルス感染症を追加する改正法(以下「改正特措法」)が、2020年3月13日成立し、翌3月14日に施行されている。 

(3)新型インフルエンザ等緊急事態宣言(以下、「緊急事態宣言」)の発令
 「改正特措法」の対象となる感染症の爆発的流行拡大を防ぐために、次の2つの要件を満たす場合、「緊急事態宣言」が発出されることになる。
 ・新型インフルエンザ等(国民の生命・健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものに限る)が国内で発生している
 ・全国的かつ急速なまん延により、国民生活および国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある

(4)「緊急事態宣言」の下で起こること
 「緊急事態宣言」は、全国一律に発出されるのもではなく、対象区域と期間を示して発出されるものであるが、現在、日本の全都道府県が対象となっている。
 発出後は、該当する地域の都道府県知事に対して、国民の生命および健康を保護し、また国民生活および国民経済の混乱を回避するために必要と考えられる、次のような措置を講じる権限が与えられる。ただし、これらの措置の内容は、都道府県によって異なる。

項目措置内容
住民の不要不急の外出自粛要請
学校・社会福祉施設
(通所または短期入所に限る)
使用停止の要請・指示
映画館・百貨店・展示場などの大規模施設使用停止の要請・指示
(食料品や医薬品などの販売は継続)
大規模イベント開催制限・停止の要請・指示
医療機関を開設するための土地・建物使用(所有者の同意がない場合も可能)
医薬品・食料品などの緊急物資 売り渡し要請(収用も可能)

「改正特措法」に基づいて作成


4.建設現場の事業継続
 建設工事については、「緊急事態宣言」が発出された場合でも、国民の安定的な生活確保の観点から、インフラ運営関係等に係る事業者は、事業の継続が要請されている。
 ただし、資機材等の調達困難や感染者の発生など、新型コロナウイルス感染症の影響で工事が施工できなくなる場合は、「不可抗力」によるものとして、受注者は発注者に工期の延長を請求できるとされており、また増加する費用については、受発注者が協議して決めることとされている。


■おわりに
 「緊急事態宣言」が出されて以降、地域によって感染者数の増加が落ち着きを見せるところと、まだ増加に歯止めがかからないところがある。今後、流行の第二波、第三波とともに流行そのものが長期化することも懸念されていることから、今一度、自社の感染防止対策を強化しつつ、自社の事業継続計画を検討することが求められる。