連載「動き出す信州のグリーンインフラ」(全4回)

第3回:講演録「グリーンインフラの力を引き出すマネジメントとは?
~みどりの中間支援組織の役割~」

NPO法人Green Connection Tokyo代表理事 佐藤留美氏

公園など都市のグリーンインフラの機能を高める様々な取り組みに精通し、コーディネート力も抜群のスペシャリスト。みどりのオープンスペースに関わる産官学民のネットワークを活用し、パートナーシップ事業を展開している。みどりの中間支援組織の設立者として、全国の公園緑地やオープンスペースの保全・利活用についての相談対応・企画運営に多数携わっている。著書に「パークマネジメントがひらくまちづくりの未来」(共著、マルモ出版、2020)。グリーンインフラ官民連携プラットフォーム運営委員会委員、(一社)公園管理運営士会理事、(公財)日本花の会理事、茨城県自然博物館助言者、NPO法人都市デザインワークス理事。

コロナ禍で注目が高まるグリーンインフラ

 コロナ禍での都立武蔵国分寺公園の利用者数を示したグラフをみると、昨年3月の自粛が始まったころに一気に公園利用者が増えたことがわかる。イベントがないにも関わらず、例年並みかそれ以上の来園者で賑わっていた。身近な公園が(コロナ禍という)危機的な状況の中で人々に必要とされていたということがわかる。

 今回のコロナ禍で改めて注目されたのがグリーンインフラ。さまざまな社会問題の解決手段として期待されている。グリーンインフラは公園や街路樹のような公共的な場所はもちろん、民間が持っている土地、農地、森林などさまざまな場所もグリーンインフラ。東京都府中市、国分寺市あたりをみると、大小さまざまなグリーンインフラが存在している。まちなかにある緑を活用しない手はない。

グリーンインフラには、災害防止や生物多様性、コミュニティーの活性化、経済価値を生み出すなどさまざまな機能がある。ただ、存在しているだけではその価値が発揮されない。さまざまな人たちのパートナーシップで、使い、活かし、育てていくことで初めて緑とオープンスペースを活用する価値がより高まる。そして、人も自然もまちも元気になっていく、そういう生き生きとしたサステナブルなまちが実現できる。

 私たちが「ビジョンマップ」と呼んでいるグリーンインフラを生かしたまちのイラストを見てもらいたい。

ビジョンマップ

絵空事のように見えるかもしれないが、実は東京で実際に行われている活動をパッチワークのように合わせて集めて撮影したもの。これは地域で暮らしたり働いている人たちが、身近にある緑を生かすことでこのような街が本当に実現できる、ということを表している。

SDGsウエディングケーキの一番下にある自然環境、まさにこれはグリーンインフラ。これを生かしていくことで社会のコミュニティーが育まれていく。そうすれば経済が活性化する。この流れを作っていくため、パートナーシップが非常に重要になる。それを作っていくのが、私たち中間支援組織の役割だ。海外に目を向けると、30年以上も前からこのような動きがあり、多くの中間支援組織がグリーンインフラの機能を社会課題の解決に生かしている。私も1990年代からロンドンなど海外の中間支援組織を訪ね、いろいろな話を聞いたりインターンシップをしてきたが、この20年で緑と地域の力で素晴らしい都市再生ができていることを目の当たりにした。このような組織が日本にも必要だとし、1997年にNPO法人birth(バース)を設立した。

中間支援組織「NPO法人birth」

birthは、みどりやオープンスペースを拠点としたパートナーシップによるまちづくり活動を実践する組織で、自然と人をつなぐ「パークレンジャー」、人と人・まちをつなぐ「パークコーディネーター」、自然の力を引き出す「リソースマネージャー」の3つの専門チームが連携し、グリーンインフラの機能を最大限に生かして社会課題の解決にあたっている。

また、団体として都立18公園、市立54公園の指定管理を行っている。都市部の住宅に囲まれたような公園、一番小さいところだと15㎡くらいから、里山・里海の自然豊かな公園、大きいものだと200ヘクタールある公園までを管理している。そこにパークコーディネーターを配置し、公園と地域のポテンシャルの掘り起こし、協働に関わる課題抽出・ガイドライン策定、ステークホルダーとの連携強化やニーズ把握、新たなパートナー発掘、公園と地域の価値を高める企画提案などさまざまな活動を行っている。

公園というものはさまざまな特性がある。さらに地域にも特性がある。それぞれの特性を産官学民それぞれの方々と一緒に引き出しながら、公園と地域の活性化を図っていくというのが私たちの役割のひとつだ。

もうひとつ、都市のみどりとオープンスペースをまちづくりに利活用するための産官学民のプラットフォームとしてNPO法人Green Connection Tokyoという団体も運営している。(世界各国の都市における一人あたりの緑地面積)グラフを見ると、東京は民有地の緑が全体の約7割を占めていることがわかる。そのため、民有地の緑は非常に重要。そうしたところにはさまざまな管理者がいるが、それぞれがバラバラな方向を向いていてはグリーンインフラの機能は生かされないため、それらを繋いでコラボレーションを促進していく。

つまり、私たち中間支援組織は、都市のみどりやオープンスペースをまちづくりに生かすという視点で産官学民のパートナーシップを促進し、SDGsの概念にもある「Ecology(環境資産の継承)」、「Community(暮らしの質向上)」、「Economy(地域経済の活性化)」を達成することを目指している。みどり、ひと、まちをつなぐ役割が中間支援組織。こうした役割を持つ主体が都市のグリーンスペースの保全活用を図ることによって、グリーンインフラの価値は大きく高まると考えている。

狭山丘陵での広域連携事業の実践事例

では、続いて、中間支援組織の事例を紹介したい。 今年、第1回グリーンインフラ大賞が行われ、生活空間部門で国土交通大臣賞を受賞した狭山丘陵広域連携事業の事例。この絵図は、産官学民のパートナーシップで作成したもの。

広域連携事業のシンボルとして丘陵としての一体感や魅力を伝えている。

狭山丘陵は、東京都と埼玉県の都県境にある面積3500㎡の緑の島のような場所。周りは住宅地に囲まれていて、6市町にまたがっている丘陵地。里山の景観が広がる水源林で、自然公園指定されている。多くの施設や大学も点在。映画「となりのトトロ」のモデル地としても有名。ここでは市民の方々による里山の保全活動が盛んに行われている。丘陵には大きな2つの人口湖があり、東京都の上水道として使われている。豊かな里山の自然が四季折々の美しい風景を見せてくれる。さらに絶滅危惧種を含む多くの動植物が生息。狭山茶や伝統食など豊かな食文化も継承されている。このように、狭山丘陵は首都圏を代表する貴重なグリーンインフラだ。

しかし、狭山丘陵は多くの行政がまたがるため広域的な視点での官民連携の体制が乏しく、グリーンインフラの機能が十分に発揮できないという課題があった。具体的には、丘陵全体の保全活用を推進する旗振り役がいない、周辺施設・自治体・NPO・事業者等との連携体制がない、外来種や病害虫などの自然情報を共有し協働で保全回復する仕組みや丘陵全体の魅力や課題を共有し情報発信する仕組みがない、予算やボランティアを含む人材などの活動資源が不足しているなど。丘陵一体としての取り組みが必要とされる中で、2006年から狭山丘陵の都立公園指定管理事業が開始された。このとき東京都は、公園管理運営方針として「都県境を越えて連なる丘陵地として、協働による保全回復をはかる」とした。そのため、丘陵に関わる産官学民の連携体制を構築することを目的に、みどりの中間支援組織としてNPO法人birthが参画した。指定管理者として地域課題を複合的に解決する多彩な事業を企画し、連携の取り組みを広げている。

環境保全、普及啓発、地域振興

私たちが取り組んでいるのは、課題解決の場をつくっていくということ。環境保全、普及啓発、地域振興の3つのテーマで連携を推進している。パークコーディネーターが旗振り役となり、広域連携の拠点となる会議体の運営や参画を進めている。

環境保全では、特定外来生物キタリスの駆除やナラ枯れ対策のための情報共有など、自然環境についての情報共有・収集や協働による保全対策の実施など、ひとつの公園や行政ではなかなかできないような生態系の保全活動を一緒に取り組んでいる。電力会社と連携した樹林地管理では、生物多様性の向上について協議し樹木の上部のみ剪定していたものを株元からの伐採に変更することで、アカマツ実生苗やリンドウの生育環境確保や伐採木の資源循環ワークショップでの活用につなげている。保全活動では、キッズレンジャーと呼ばれる子どもたちにも参加してもらい、環境教育にもつなげている。また、川でつながる2つの公園で池のかいぼりを実施。これにより公園間で流入・繁殖する外来種をストップする大きな成果が得られている。安全安心・防災の取り組みというのもグリーンインフラには大変重要。雨水貯留による減災の取り組みや、鬱蒼となるという課題がある住宅際では、みなさんとビジョンをつくって林緑伐採による環境改善にも取り組んでいる。

普及啓発では、2013年に「里山シンポジウム」を開催。「未来の里山~保全と活用のヒント」をテーマに都県境を越えた7施設・団体が参加した。ステークホルダーが一堂に会する場を持つということは非常に重要で、一体となって取り組む機運の向上につながる。今年も開催を予定している。また、実行委員会を発足し開催した「狭山丘陵フェア」では、ステークホルダーの連携が年々拡大し、丘陵の魅力発信にも寄与している。子どもから高齢者までいろんな方に参加いただき一緒に考え実践している。「SAYAMA HILLS DAY」として定番化し、当初(2014年)に比べ5年目(2019年)には参加者が3.5倍になった。近隣のイオンモールなどと協力し2カ月にわたり同時多発的にイベントを開催している。地域環境や防災教育の取り組みとしては、近隣学校10校と連携し、高校の奉仕体験活動や小学校の総合学習などを実施。参加者は2000人を超えている。防災イベント・訓練など地域合同での防災の取り組みも行い、地域防災力のアップに貢献している。自然環境へのマナーも向上していかなければならないとし、地元自然保護団体など各種団体と協働でキャンペーンを実施し、パンフレットの配布やイベント開催などでグッドマナーの周知をはかる取り組みも行うほか、共同企画や視察会などを通じた「人財交流」やノウハウを学び合うことでスキルアップをはかっている。

地域振興では、地域での取り組みが評価され、6市町による観光連携事業に民間として初めて参画。基礎調査やプラン策定を経て2019年度から本格的な連携事業が現在も行われている。例えば「SATOYAMAプロモーション」。狭山丘陵をブランディングしようということで、ロゴをみんなで制作したり若い女性をターゲットにしたフリーペーパーの企画や「さやまキッズデイ」「フォトロゲイニング」「さやまヒルズライド」の3つの連携イベントについて旗振り役を担っている。遠方からの誘致に寄与しているものもある。

こうした連携事業を積み重ね、丘陵全体にネットワークが広がり、今では連携団体が136団体に増えた。狭山公園では、2006年には約30万人だった年間来園者が2019年には70万人を超え、公園ホームページの訪問者数も12倍に増えた。野山北・六道山公園では、公園ボランティアの登録者数も増え、今では企業のCSR活動なども含め年間延べ1万人近い方々が活動に参加している。

丘陵全体にネットワークが広がる

このように、協力し合える関係の構築、情報や人の行き来の円滑化、協働で保全回復する体制、知名度の向上、新たな資金や人材の確保という効果が表れ、当初のさまざまな課題が解決され、丘陵一体となった取り組みが実現している。中間支援組織が連携を促進することで、人・自然・まちをつなぐグリーンコミュニティーが育まれ、狭山丘陵が有するグリーンインフラの機能が最大限に発揮されている。(終)