連載「動き出す信州のグリーンインフラ」(全4回)

第2回:講演録「公共空間の活用(公民連携)で進めるグリーンインフラの実装」

公園財団常務理事 町田誠氏

1982年建設省入省。建設省、国土庁等で勤務、国営公園の整備管理に携わる。2000年国際園芸・造園博覧会ジャパンフローラ2000、2005年日本国際博覧会(愛知万博)、2012年全国都市緑化フェアTOKYO GREEN2012等において、会場整備、大型イベントのプロモート等に従事。さいたま市技監、東京都建設局公園緑地部長、国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室長などを経て、2016年6月から公園緑地・景観課長。2018年7月国土交通省退職。令和3年6月から(一財)公園財団常務理事。

今日は、より多くの人にグリーンインフラというマインドを持ってもらうためには、公共セクターの人間がどう立ち振る舞うべきかという観点からお話したい。いわばグリーンインフラの広報宣伝部長になったらどういう戦略を立てるのか。

グリーンインフラを日常的な言葉で伝える

7月にオープンした最初の週末に長野県立美術館へ行ってきた。その1年ほど前に行ったときは仮囲いに囲まれていて、どんな美術館になるのかと思っていたが、長野市の公園とつながり善光寺を望むことができる、透過性の高い建築だと感じた。アクセスしやすい空間というのが、グリーンインフラのマインドを高める重要な要素だ。

長野県が策定した「信州まちなかグリーンインフラ推進計画」は、日常的な言葉で書かれている。こういう表現はめったにされないので、共感を持った。国土交通省におけるグリーンインフラの推進では、グレーインフラとの対比で語られることが多かった印象の中、道路空間を活用した沿道地域の活性化で、「多くの人で賑わう」「道路空間をオープン化してオシャレなストリートに」などの地域課題をこれまでグリーンインフラの計画では語られることがない言葉で語られていることがうれしい。

環境価値観の再構築化へ大きな看板

私たち(緑に関わる者)からすると、グリーンインフラを考えるときに「SDGs」とか「生物多様性」と言われるとピンときてしまう。でも、すべての人がそう考えるわけではない。そこに広報的な視点、宣伝的な視点が必要だと主張させていただきたい。

SDGsというものを実現しようとしても、概念や目標、ターゲット、指標を知らないと意味がない。公園・公共空間はSDGsの概念の中でどこに関われるのか。自然資本の中にも、社会関係資本の中にも、財務・人的・知的・製造資本の中にも、全体を描く中で公園や公共空間が使われていくということが非常に大事だと思っている。

土木や建築の分野でもグリーンインフラという言葉を使うが、「これは本物のグリーンインフラではない」と言ってしまいがち。それではグリーンインフラは広がっていかない。100人のコアな専門家よりも10万人のファンをつくることが重要で、究極的には1億2500万人超のグリーンなマインドの総和を最大化する。そのために「グリーンインフラ」「SDGs」という概念がある。グリーンインフラやSDGsは環境価値観の再構築化のための大きな看板であるという考え方で進めていくことが大事だ。

長野県は、4~5年前に10月16日を「街路樹の日」と制定した。これは全国でも長野県だけではないか。大事なのは制定することの意味。これにより、街路樹に目を向けていこう、緑を守り育てて少しでもよくしていこうという広報戦略がとても大事だと思っている。

これからの公園緑地行政

公園や公共空間の政策の流れの中で、多くの人たちがコミットできる環境整備が進められている。公園緑地行政147年の歩みを年表にしてみると、これまでもいろんな制度があり、グリーンインフラに関わる制度が進められてきた。が、それがうまくオペレーションされているかどうかは別。公園等のストック量をみると、(平成30年度の国交省の調査では)日本には住区基幹公園が9万5000箇所、都市基幹公園が2200箇所、港湾緑地や児童遊園など合わせると15万箇所、面積で約13万ヘクタールの公園があるとされている。大きなものから小さなものまでたくさんある。これだけの公園を私たちはこれからどうやってマネジメントしていけるのか。税収も下がる中でできるのか。㎡あたりの維持管理費が年々減少している厳しい財政状況の中で、沖縄本島の広さに相当する公園を管理するのはとても難しいことだ。改築や再生整備ができず空間の質・機能が低下し、暗く汚い公園は防犯やまちの価値向上からも負の財産となる。

一方、公共空間を考える公民連携の流れをみると、2001年に「民間でできることは民間に委ねる」骨太の方針が出されたが、当時はまだ「民間に参加させる」意識が強かったように感じる。その後、2011年に道路空間や河川空間における商業活動における特例として商業的な利用を推進するようになり、官民連携や公民連携という価値観に変わっていき、今では協働や協創という言葉で表現されている。歩道空間にカフェやレストランができ、多くの人たちが緑のある空間で快適に過ごすことができるようになった。都市公園の中に保育所や高齢者福祉施設を設置する例も増えてきた。河川は整備の要件が厳しいが、都心を中心に整備が進んできた。これらを例に、2017年に法改正されたPark-PFI制度を活用し公園を利活用する事例が全国的に増えている。賑わいのある拠点を整備することで、その収益を公園の維持管理に充てる仕組みが実現している。

公募設置管理制度

増える全国のPark-PFI活用事例

和歌山県和歌山市の本町公園は、地元のまちづくりグループが企業と連携し使われなくなった建物を改装した飲食店や売店を整備。その収益を活用し地下駐車場上部の芝生化やイベント実施、隣接する子ども関連施設との連携・交流の場としている。

市立病院の跡地を利用した鹿児島県鹿児島市の加治屋まちの杜公園(仮称)は、「講演とレストラン、日常と非日常をつなぐ緑のゲートウェイ」をテーマに芝生広場、ナポリの石畳を整備。ガーデンパーティーやガーデンウエディングを実施している。多くの人が緑の価値や桜島が見える景色の価値を感じてもらえる空間になった。

広島県福山市の中央公園は、「日常のアップデートとハレの日を日常に」をコンセプトに、自家農園で採れた季節の野菜をふんだんに使ったガーデンレストランを整備した。ヨガやマルシェなどの利活用により、これまで人出が少なかった公園ににぎわいを取り戻した。

このように、今は公共空間を民間施設と分け隔てなく利用できるようになり、アイデア次第でみんなで楽しめるオープンスペースに整備できるようになった。

本町公園

公園はエリアマネジメントの出発点

公園のことだけを考える、公共空間を良くしようと考えている状態は意味がない。これからは、公民連携や官民連携、公有財産活用、公的不動産活用をキーワードに、どれだけ地域を良くしていくかを考えるべきだ。公園はエリアマネジメントの出発点になる。みんなでマネジメントしていきましょう、というマインドが一番大事なのではないか。(終)