連載「流域治水とグリーンインフラ」(全4回/3) 

【第3回】 

みんなで取り組める流域治水~秋葉芳江氏講演より 

CO2バンク推進機構が8月10日に開催した「ゼロカーボン長野プログラム2022 グリーンインフラフォーラム オンラインシンポジウム~流域治水におけるグリーンインフラの役割と可能性~」。基調講演とパネルディスカッションの模様を紹介する連載の第3回は、長野県立大学大学院ソーシャルイノベーション研究科の秋葉芳江教授の基調講演「みんなで取り組める流域治水」を取り上げる。 

長野県立大学の開学で長野に着任する前にいた兵庫県神戸市での取り組みは10年になる。兵庫県は2004年頃から治水対策について取り組んでいた。 

12年には県条例として全国で初めて「兵庫県総合治水条例」を施行した。条例の制定に至った背景としては、04年、09年、11年に大きな水害が発生し、これまでの治水だけでは浸水被害を防ぐことが困難であるという共通理解があったことが大きい。 

もう一つが、2級河川・武庫川水系の河川整備基本方針・整備計画に関する委員会が06年に出した提言書。その中で条例の策定を提案したことが引き金になったと言える。「ながす」「ためる」「そなえる」を骨子に今年で11年目を迎えている。全県を11地域に分け、地域総合治水計画を策定し、総合治水推進協議会を設置。国にスキームと同じように進めてきた。「条例ができて、部署や組織の壁を越えてみんな協力してくれるようになった」と当時からの担当者は条例ができて良かった点を話してくれた。 

市民・事業者が取り組める兵庫県での事例を紹介したい。 

まず、水田に雨水をためる。兵庫県も長野県と同様、全県に水田が広がっている。一般的だが、セキ板をはめて大雨時に開ける方法を水田所有者に協力してもらったところ、10年間で水田貯留約7200ヘクタール、360万㎥にまで広がった(04年5月時点)。853団体に田んぼダム用のセキ板3万4738枚を県農林水産部の担当部局から配布した。 

ため池貯留では、条例に基づき兵庫県独自のため池治水拡大推進事業として取り組んでいる。今日までにため池貯留が14箇所で73万7000㎥、ため池事前放流が612箇所で578万4000㎥と、武庫川水系で議論していた当時と比べため池整備が格段に広がっている。 

農林水産省は令和5年度から「利水施設管理強化事業」という名目で予算付けされる点もこうした取り組みを後押しするものとして注目してほしい。 

校庭貯留と公園貯留は、委員会でのヒアリングでは「難しい」と言われていたが、今では学校関係者や公園管理者の協力を得て、校庭貯留が県立17校、市町立76校の計93校6万7800㎥、公園貯留が県立3箇所、市町立43箇所の計46箇所8万3000㎥の貯留が見込めるようになった。中には地下に雨水をためる施設をつくった公園もある。 

若干水引きが悪くなったという声もあるが、地域にダイレクトにきくという点でいい事例だと思う。 

雨水をタンクにためる各戸貯留は「やるしかない」ということで、約3500基530㎥まで進んだ。地元のNPOや自治体が積極的に取り組もうとしてくれたことがよかった。これは「みんなで取り組める」ことの浸透にかかっている。治水効果の数字云々ではない。みんなで取り組めるように頑張ることの方が効果は大きいと考えている。 

兵庫県で実施された高校と博物館による総合治水啓発活動は、高校生が探究活動として模型を使って子どもたちに教える点が毎年人気のイベントになっていて、教育の観点でも重要だと思う。長野でも実現できればと考えている。 

予算が限られた中で手直しや撤去が速やかにでき、さまざまな人が参加できる「小さな自然再生」の取り組みもいい。河川管理者や自治体だから取り組めるものでは、利水ダムの治水活用は特に兵庫県が頑張った事例。近代土木遺産の100%利水ダムを5年間で28億円、県単事業で改修を進めた。このほかにもさまざまあるが、計画分野別に横の連携で進めていくことは、長野県でもどこの自治体でも参考になるのではと思う。 

最後に、経営の観点から、流域治水やグリーンインフラをビジネスにきちんと組み込んでいきたい。私たちの社会や経済は自然環境が土台。いわば生存基盤。なので、自然に目を向けて「自分事」から進めていきたいと考えている。多面的な機能というのはいろいろなところにあり、身のため身の回りにできることはいくらでもあるはず。みんなで知恵を絞ってみんなで取り組んでいこう、ということを改めて伝えたい。 

ソーシャルイノベーションの点から言うと、イノベーションは自分事からしか始まらない。経済面では、(生物多様性の新たな保全地域である)OECMの活用が重要だ。「30 by 30」(2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標)のアライアンスが発足し、長野県内では軽井沢町が参加している。 

ビジネスは新しい価値を「掛け算」で作り出していく。「グリーンインフラ・流域治水✕◯◯」で取り組んでいきたいと考えている。(終わり)