連載「流域治水とグリーンインフラ」(全4回/2)

【第2回】

流域治水とグリーンインフラ 今後の課題と展望~瀧健太郎氏講演より

CO2バンク推進機構が8月10日に開催した「ゼロカーボン長野プログラム2022 グリーンインフラフォーラム オンラインシンポジウム~流域治水におけるグリーンインフラの役割と可能性~」。本紙では、基調講演とパネルディスカッションの模様を4回にわたり連載する。第2回は、滋賀県立大学環境科学部の瀧健太郎准教授の基調講演「流域治水とグリーンインフラ 今後の展望と課題」を紹介する。

講演する瀧健太郎氏

 私は5年前までは滋賀県庁の職員だった。滋賀県は琵琶湖を中心に流れ込む河川がたくさんあり、千曲川を中心にたくさんの支川が集まる長野県の流域と似ている。流域をどのように治水していくのか、またまちづくりと一緒にグリーンインフラをどう生かすか、うまくいったことやまだうまくいっていないことなどを皆さんと共有させていただきたい。

 今から15年ほど前に、流域治水を担当することになり、現在のハザードマップのようなものを河川管理者の立場で皆さんに提示したところ、「河川が溢れないように管理するのが仕事だろう」と非常に怒られた。当時から「河川管理は川の中だけでは守りきれない」という自覚はあり、国からも総合的な治水対策を検討するよう働きかけがあったが、なかなか理解してもらえなかった。

2年前に流域治水関連法が制定され、「あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な『流域治水』への転換」ということで、国の治水対策が大きく舵をきった。滋賀県では、2012年に「流域治水基本方針」が議決された。長野県とは少し定義が違うかもしれないが、川の中の対策だけではなく「ためる」「とどめる」「そなえる」対策を総合的にやりましょう、多重防御しましょうということを掲げ、これに基づいて政策や条例の制定を進めてきた。

 治水計画の変遷をみると、これまでは、既往最大の洪水を溢れることなく河川とダムで処理をする、ということが治水の考え方だった。さらに、洪水は確立減少なので、起こってから何か対策するのではなく、あらかじめ計画的な目標を立てて河川とダムで処理をする、という考え方に変わっていく。そして、総合治水。都市化が進み、雨水が河川にどんどん流れ込むようになったので、河川に入った雨水を処理するだけではなく、流入する雨水そのものを減少させる対策に入れた。

いま流域治水は、洪水氾濫を前提として考え、代替案は河道流域施設だけではなく氾濫原の被害軽減策を考慮に入れようというものだと理解することができる。ただ、治水の中心になる河川管理というのは、河川法に基づくため、やり方が限定されてしまう。溢れる前に対策するとか、溢れた後のまちづくりには河川法上、対応していなかった。

滋賀県では、超過洪水も考慮した治水計画を進めてきた。米原市を流れる天野川の災害復旧事業では、曲がりくねった川の両岸をコンクリートブロックで固め、川底を広げて万全を期すが、人家や堤防決壊による被害を防ぐ狙いで施した霞堤は残した。これは、河川管理者として決められた洪水対策はきちんとしながら、それでも超過洪水のことを考えていた、何十年も前の土木の先輩による工夫の表れだと言える。

 2006年、流域治水政策室が河川担当課とは独立して立ち上がった。翌年、流域治水検討委員会及びワーキンググループが始まり、庁内関係10課、琵琶湖河川事務所長、流域8町村の副市町長で構成。ワーキンググループは「まちづくりワーキンググループ」「防災ワーキンググループ」に分けて、担当者レベルで議論した。住民の理解を得るため、学識経験者も加わり、「災害を防ぐ公助だけではなく、住民みんなが自助・共助を頑張れるような公助をしてほしい」という提言をもらった。これらのプロセスに、6~7年かかった。

 そもそも自分たちを取り囲む河川施設の安全度は設計レベルから違う。なので、それぞれの設計レベルに合わせてみていかないと本当のリスクがわからない。生活圏を取り囲む河川や水路からの複合的な氾濫を考慮することが大事になってくる。被害の種類や大きさを横軸、発生頻度を縦軸にしたリスクマトリクスを50mメッシュで作成し滋賀県独自の水理モデルを作った。多段階でみるリスクマップの運用は動き出しているので、こうした取り組みが全国的に広がっていけばいいと思う。

 

 流域治水関連法では、川づくりとまちづくりが連動しながら取り組む枠組みが整備された。多段階のリスクマップができると、例えば新たに道路や鉄道を整備するとき、河川とまちの位置に応じて盛土にするほうがよいか避溢橋(ひいつきょう)にするほうがよいか、道路管理者に対して流域管理の立場から示すことができ、氾濫原の連続盛土構造物の影響評価できる。

河川区域内が河川法によって守られているように、河川区域外、例えば都市や農地や森林など暮らしや生業の舞台であり防御対象であるそれぞれが法によって守られている。流域治水を進めることは、個別法の主要目的に「治水」という付加価値をつけること。いわば土地の多目的化や多機能化をはかることだ。それはグリーンインフラの考え方に沿っているのではないか。(終わり)